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- 嗅覚のトリビア1 -プルースト現象-
嗅覚のトリビア1 -プルースト現象-
藤尾久美医師による嗅覚のトリビア
第一回目はにおいと記憶のまつわるお話です。
まずは、においを感じる過程について説明します。におい分子は鼻の奥にある嗅上皮の受容体(レセプター)に、くっつきます。そして、嗅上皮を経て、嗅糸、嗅球へとにおいの情報が伝えられていきます。ここを1次中枢とよびます。その後、2次中枢へ伝えられます。ここは非常に興味深いことに、脳の奥にある大脳辺縁系とつながっています。ここには、感情と関連する扁桃体、記憶と関連する海馬があります。そして最終的には3次中枢で味覚、視覚、触覚なども入力されて嗅覚として自覚します。
例えば、バニラアイスクリームを食べた時、まず、1次中枢でバニラのにおいが受容体に結合し、2次中枢で以前味わった記憶、その時のことも加味され、3次中枢へ伝えられ、最終的に、視覚、舌触り、甘い、冷たいなどが入力され、バニラアイスクリームとして楽しめるわけです。
ここで、今回の嗅覚のトリビア、プルースト現象をご存知でしょうか。
これはなにかのにおいを嗅ぐと、その時にまつわる記憶や感情が蘇る現象です。フランスの作家マルセル・プルーストが書いた「失われた時を求めて」という小説の中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸した際、その香りで幼少時代を思い出すシーンがあり、この一説からプルースト現象と呼ばれるようになったと言われています。街角でふと、嗅いだ香水のにおいである人を思いだしたり、お花のにおいを嗅いで、あるシーンを思い出したりしたことはございませんか?においと記憶、その時の感情を思いだす、においの魅力の一つです。
私はバナナのにおいを嗅ぐと、バナナが大好物だった(なぜか人参は嫌がった)、昔に飼っていた可愛かったうさぎを思いだし、心が温まります。
コラム「嗅覚(におい)の障害の原因と治療」に少し記載されている「嗅覚刺激療法(嗅覚トレーニング)」は、この経路を利用したものです。従って、知っているにおいを嗅ぐ、というのがコツです。